ブラッティ・エンジェル
 「さっきは楽しかった」
私がベランダで洗濯物を干してると希が自分の洗濯物を持ってきて、そんなことを呟いた。
「楽しかったけど、ひどかったよね。いっつもあんなので寝てたっけ?」
ふと気になった疑問を言うと、希は自分の洗濯物を干す手を止めて、悪戯っぽい笑みを見せた。
「あれ、サヨを困らせる作戦」
「はぁ!?」
私は驚いて洗濯物を落としてしまった。はっとして、すぐ拾うけれど床が汚いからまた洗い直しだ。
「だって~、サヨいっつも僕のこと起こしに来るじゃん」
「当たり前だよ。希、ぜんぜん起きないんだもん」
溜息混じりに私が言うと、希は頬を少し膨らませて子供みたいな怒った顔をした。
「起きるよ。ただ、サヨがその前に起こしに来るだけで」
「バイト先で聞いたんだから。希はよく寝坊して遅刻してくるって」
「ちょっとだけだよ」
「1時間が?」
うっと、希が言葉を詰まらせる。まったくと、溜息とつきたくなった。
「でも、その分きっちり働いてるし」
「ホント、マスターがいい人でよかったね」
「マスターは僕のことわかってくれてる」
希はあごをなでながらうんうんを首をたてに振っていた。
 私はふ~んと興味なさそうに洗濯物を干しながら呟いた。
「マスターに希を起こすように頼まれてるんだよね~」
「え!?」
今度は希が洗濯物を落とした。
 私はなぜか心の中でガッツポーズをして、勝ったという勝利感を感じていた。
「そんな~、マスターが~」
希はがっかりそうな声を出してしゃがみ込み、落とした洗濯物を拾った。
 白いシャツだから、汚れがはっきりわかる。これは洗い直しだ。
 と、思ったのもつかの間、希はバサバサと汚れをはらうようにシャツをふった。それでも、汚れはぜんぜん落ちてはいない。
 それなのに、希はそのまま洗濯物をかけた。
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