ブラッティ・エンジェル
 思いきってあげた顔に朱い雫が跳んできた。
 生臭い、血の臭い。
 蛇口から滴る水のような朱い雫。
 真っ赤に染まった、希の体。
 顔に触れた手のひらを見ると、真っ赤に染まっていた。
 視界がぼやける。
 崩れ落ちた希の傍らに、一人の少年が立っていた。
 真っ赤な翼。真っ黒い服。真っ赤に染まった大鎌。
 それが誰で、何をしたのか瞬時に理解できた。
 いずれ、こうなるとわかっていたのに…。
 死神。とても希少な天使。
 天使の犯した禁忌の後始末役。禁忌を犯した天使の後始末役。
 神のご命令で、私の後始末に来たんだ。
 禁忌で蘇らせた者を始末し、禁忌を犯した天使を捕まえるために。
 こうなると、初めからわかっていたのに…。
 きっと、氷みたいに冷たくなった希を見つめる。
 他の死神に、羽交い締めにさせられる。
 希はこんな死に方を望んだだろうか?
 あのときの、私の決断がこんな事をまねいてしまった。
 希の傍らにいた死神が、手をかかげる。
 すると、希の体が淡い黄色い光に包まれた。
 足の先から、シャンパンのような黄色い粒子になり、死神の手に集まっていった。
 これが終わり、彼らを従えている魔王の手にそれが渡れば、この世のものすべて希の事を忘れてしまう。文字通り、消えてしまうの。
 私のような、この世のものでないものには残りはするが、きっと意味がないことだろう。
 足から胴体、腕、首、顔。すべてが粒子になり、彼の手に収まるのにそれほどの時間はかからなかった。
 一回その手をギュッと握り、また開くと、円いシャンパン色の個体になっていた。
 それを見た瞬間私の体温は一瞬に引き、すべてのものがシャットダウンした。


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