ブラッティ・エンジェル
「な~んだ、そんなことか」
「そんな事って…!」
「俺たちからしてみれば…って、俺だけかもしれないけど、そんなことだよ。」
望は良かったとでも言うような涼しい顔だった。
 両手を望はテーブルの上に出した。
「誰を、誰かに、重ねることは」
その両手をパンッと合わせる。
「よくあることだよ」
ニコッと望は笑って見せた。
 サヨは面食らった。
「俺だって、そんな経験に覚えがあるよ」
頭の後ろで手をくんで、イスごと少し倒れる。普通、四脚のイスを、二脚で支えているため、フラフラと危なっかしい。
「サヨのは人と比べて、重ねてた相手との記憶が凄かっただけ」
なぜだか、そうだったかもしれないと心が軽くなる。
 彼は魔法使いなのかしらっと、サヨは心の中で笑った。
「ねぇ」
「ん?」
望がテーブルに乗りだして、サヨに近づいた。
 まるで内緒話をするように。
「今でも、俺をそのノゾムと重ねてる?」
「それは…」
もう、とっくの昔に解ってた。
 望と希は違うって解っていた。
 希と望は違いすぎていて、重ねる事ができないぐらいに。
「重ねられないし」
「え?」
うつむいてぼそっと呟いた感じだったけど、この距離では確実に聞こえたはず。
 チラッと望を見ると、耳に手を当てて愉快そうな顔をしてる。
 ホントに幸福者。
「一回しか言わないし」
望に対抗してサヨはつっけんどんにいってやると、アッカンベーをした。
 少し、驚いた顔をした望は、すぐ吹き出した。
「おっかしな顔」
「ひっどーい」
サヨはお腹を抱えて笑っている望を、軽く小突いた。
 その時の顔は、本当に楽しそうだった。

< 66 / 218 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop