ブラッティ・エンジェル
「よ、バカップル」
サヨが店に帰ってきたと同時に、店に高校生らしき少年が入ってきた。
 少年達が見ている方向には、困ったという顔をした望と顔を真っ赤にした知らない少女。
 その少女は、どこか昔のゆずに似ていた。
「カップルじゃないよ。俺たちは、友達だから」
「クラスもバイトも、中学だって同じだし、いっつもいちゃついてるじゃねぇかよ」
「いちゃついてるわけじゃないんだけどな」
望が頭を掻いた。少年は、面白いというようにクスクス笑う。
「お似合いじゃん。付き合ってねぇなら、付き合っちゃいなよ。そうすりゃ、噂がホントになるしな」
「もしかして、ひやかしにきただけ?」
「ひやかしってひっでぇな。俺たちはアドバイスしただけ。それに、ちゃんとヨージあるしな」
そう言うと、少年は固まっているサヨのほうをチラリと見た。
「最近多いんだよねぇ。こうゆーお客」
カウンターにいたマスターが、こっそりと呟く。
 サヨは、やっと自分が注目されているのに気づき、首を傾げた。
「ちょっとばかし、プチ有名人を見に」
プチ有名人。
 いつの間に、サヨはそんな称号をもらっていたのか本人ですらわからなかった。
 少年はカウンターに座るった。
「ご注文はなんにします?」
「お金ねぇんだけど、おごってくれる?」
「はぁ?」
カウンターに座ったということは、注文するものだと思ったのに。もちろん、払うお金もあって。
 明らかに、ひやかしだ。
「金がないなら、水しか出せないわよ。ひやかしに来たんなら帰りなよ」
と、突然現れたゆずがきつい口調で言った。姐さんって感じの。もしくは、男前。いや、これは言い過ぎか。
 すると、少年はゆずを一回睨みつけると、何も言わずに出て行った。
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