ブラッティ・エンジェル
 「そんなこと、言わないでよ!あんたが嬉しいならそれでいいじゃない!どうせ最後は自分なんだからさ!」
サヨはすっかり頭に血が上ったようだ。
 道のど真ん中の、サヨの絹を裂くような声はどこまでも響き渡った。
 さすがのセイメイも、驚いた。しかし、最後の言葉は、悲しすぎた。
「サヨチャン、それは違うヨ。大事なら、その人の一番の幸せを…」
「それ以上言わないで!」
耳を塞ぎ、大きく髪を乱しながら首を横に振るサヨ。この姿は、あまりにも脅威的だった。
 彼女をここまで狂わせたものは、いったい何なのだろう。
 原谷希の存在だろうか。雨宮望の存在だろうか。
 いったい何をそんなに、恐れているのか。
 どうして、ここまで変わってしまったのだろう。
 本当の彼女は、どこへいてしまったのだろう?
 それとも、これが本当の彼女なのだろうか。
「それ以上、何も言わないで。今までのままなら、私は私を失うけど、私はこれ以上目的を、心ない天使だと言うことを忘れないですむ。もう、苦悩の日々とおさらばできるの」
やっと落ち着いたのか、疲れてしまったのか、いや、そのどちらでもないのかもしれない。
 うまく言うことは出来ないが、糸が完全に切れてしまったような感じとだけ、言っておこう。
 サヨは落ち着いた声で、息を切らしながら、呟いた。
 その目に、光がともっていたかと問われたら、誰もが首を振るにちがいない。
 その顔が、何に見えると聞かれたら、人形だと誰もが口をそろえるだろう。
 なにも出来ないと、身にしみてわかったセイメイは、下唇を噛んでいるだけだった。
 こんな時、原谷希なら。否、雨宮望なら、どうする。
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