ブラッティ・エンジェル
「じゃあ、サヨの幸せはどうするんだよ」
望の言葉に、サヨはハッと顔をあげた。そして、少し後退る。ちょっとした距離なのに、たった一歩の距離なのに、大きな跳び越えることの出来ない、深い溝のようだった。
 その顔は、いつものサヨだった。一人の女の子のような、顔。完璧じゃない、普通の。
 それなのに、すぐサヨの顔には狂気の色が現れた。
 どこを見ているかわからない目が、望をとらえた瞬間、サヨは悲しそうに微笑んだ。
「私は、罪を重ねすぎたの。幸せになる資格なんてない」
「そんなことない!サヨだって、一人の普通の女の子なんだ」
ガッと掴んだサヨの肩は、震えていた。
 望を見つめる目に、迷いの色が見えた気がした。
「前も言っただろ。サヨは、過去が強烈すぎただけ。ただ、それだけなんだ」
サヨ目が、大きく見開かれた。
 いったい、この言葉がどうしてそんなに、サヨを刺激するんだろう。
 聞き方によっては、今までの自分を否定されるような言葉なのに。
 もしかしたら、サヨはそれを求めていたのかもしれない。
 自分でも、悩んでいたのかもしれない。
 自分は過去に縛られているままで良いのか。
 もしかしたら、本当は過去の束縛から解放されたかったのかもしれない。
 だから、今までのサヨを否定されることは、過去に縛られたサヨを否定されること。
 サヨは、薄く笑った。その顔は、吹っ切れた後のすっきりした顔。
「望に言われると、本当にそんな気がする」
そして、晴れやかに望に笑ってみせた。
 その顔を見た瞬間、望の胸にはこれまでにないくらいの喜びがこみ上げてきた。
「好きだよ。サヨ。もう、離さない」
嬉しくて、思わず本心を言ってサヨをきつく抱きしめてしまった。
 セイメイは複雑な気持ちを抑えて微笑んだ。ユキゲは大きくガッツポーズをとった。
 突然の告白。抱きしめてる腕の強さ、ぬくもりに、サヨの胸のあたりは一気に熱くなった。
 しばらく驚いていたけど、今度は手遅れにならないうちに。
「私も好き。大好き」

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