Death File
母の人はわたしがおこなっていることに酷く怪訝な顔をしていたが、最近のわたしは親の人たちとは言葉を交わさないようにしているので関係のないことだった。

もっとも、親の人たちとは血も繋がっていない赤の他人なのだから、わたしがなにをやろうと関係のないことなのだ。

すべての材料が揃ってから、わたしは決行をその日の夜にするか、翌朝にするか悩んだ。

その日の夜なら最終電車を狙わなければならないが、翌朝なら通勤ラッシュ時を狙えば済むわけで時間は特別限定されるわけではない。

そういったことから、わたしは翌朝に決行をすることに決めた。

ためしにリュックサックを背負ってみる。重い。

中には22リットルのガソリンが入っているのであたりまえだ。

そして、4リットルのポリタンクを手に持ってみる。

すさまじく重い。

長年にわたってほとんど家に引き籠っていたわたしにはかなりの体力が必要とされたが、決行は翌朝だ。

躊躇してはいられない。

ポリタンクと、リュックサックを下ろすと、わたしは翌朝の惨劇を想像してみた。

逃げ惑う人の群れ、しかし人ごみに押されて逃げることができない。

そう考えていると、わたしの中の興奮が最高潮にまで達していた。

わたしはその興奮を抑えきれずに部屋にある人形をはさみでバラバラにしてみた。

幻聴はあいかわらず聞こえてくるが、親の人たちの話し声ではなく、ガソリンだ、ガソリンだ、ガソリンだ……という言葉に変っていた。

わたしは翌朝にそなえて、コンビニで日本酒を購入すると、それを呷るようにして飲むと眠りについた。

生まれて初めての日本酒の味はとてもまずくて頭がクラクラするのでよく眠ることができた。

そして決行の朝がやってきた。
< 15 / 17 >

この作品をシェア

pagetop