Death File
中でも、わたしの心を強く惹きつけたのは、ガソリンをかぶって焼死する瞬間をそのまま撮影した映像だった。

その男はなにか英語で書かれたメッセージボードを首から提げて、ガソリンをかぶり、そして自ら火をつけた。

火だるまになりながらもカメラに向かってメッセージボードを掲げていた男にわたしは感銘を受けたのだった。

男の最後は黒こげの死体だったが、カメラはくすぶり煙を立ち昇らせる黒こげの死体をずっと撮影していた。

あれほど惹き寄せられた映像はなかった。

ひとりの人間が自らの命を賭してなにかのメッセージを伝えるという行為は映画ではできないものだった。

まるで映画というものがとても拙劣に思えてきてしまうほど、男のメッセージはわたしを強く惹いた。

もちろん、男のメッセージと、映画とでは比べようがないし、比較の対照にもならないのはわたしにも充分理解できる。

映画はいわば娯楽であり『Death File』はドキュメンタリー映画なのである。

したがって、フィクションとノンフィクションを比較してもしようがないのである。

わたしはこの『Death File』を観てから似たような残酷な映像を求めてDVDレンタルサービスを利用した。

主としてホラーに分類されるジャンルであり、中には人間が死に、朽ち果てるまでを撮影したものもあったし、バラバラに切断された遺体を撮影したものもあったが、わたしの中では黒こげの死体がいちばんのお気に入りになった。
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