おもいでにもならない
【教えて】
チャイムの音と同時に、教室を出た。
窓から覗く紅葉が、廊下を早足で進む私を一層急かせる。
《1日5個限定もみじパン》
もう2日も逃していた。
今日こそ、ぜ~ったいにゲットしてやる!!
と、階段をかけ降りた時、
「笠原思乃ぉ!」
脱色で傷んだ髪を無駄に立たせた男が、聞くのもダルい大声で私を呼び止めた。
出た。
…また知らない人。
「お前、そーとー遊んでるって聞いたぜぇ」
「…だったら何。」
ネクタイを緩めてだらしなく着崩した制服から目を離し、棒読みで答える。
…なれっこだ。
面識の無いはずの相手が、私の名前を知っていることにはもう驚かない。
まぁ、こんな美人なんだから
有名なのも分かるけどね。
昼休憩でさえ、1人ですごす私にかけられる声は、決まってこのセリフ。
“遊んでんだろ?だったら…――”
「俺にもヤらせろよ」
――ってね。