オレんちの兄さん2
「え?」
オレはその言葉に驚いて、太一が見ている方向に目をやった。
そこは、本屋のちょうど向かい側にある、先月オープンしたばかりの喫茶店。
ケーキが旨いと評判らしく、オープン当初から兄さんに「行こう」としきりに誘われているが、甘いものが苦手なオレは何かと理由を付けて断り続けていた。
その店内に設けられた席の一つに、兄さんがいた。
「一緒にいる人、滅茶苦茶キレーじゃね!?」
興奮気味の太一の言葉を聞きながら、オレは兄さんの向かいに座る女の人に釘付けになった。
長い髪に、遠目でもわかるくらいに白く、透き通った肌。
何を話しているのか、二人は楽しそうに笑っている。
「いいなぁ」
「何がだよ。
何か食ってることがか?」
「それもまぁそうだけどよ。
なんつーの?
大人な恋愛的な雰囲気がさぁ」
大人な、恋愛……
「なぁアサヒ。
あの女の人、兄ちゃんの彼女なのか?」
彼女……っ。
「ンなこと知らねえよ!」
「急に何怒ってんだよ?」
「お前がくだらないこと言うからだろ、この万年赤点野郎!」
「く、くだらないって……
ただ兄ちゃんの恋人かどうか聞いただけじゃねーかよ!」
「それがくだらないって言ってんだよ!」
「オイオイ、止めろよお前ら」
「帰る!」
「帰る……って、参考書どうすんだよ、おぃ、アサヒ――!!」
冷静にこの場所に来た目的を告げる裕也の声を背中に聞きながら、オレは人混みの中を来た方向へと進んだ。
今さっき見た光景と太一の言ったことが、頭の中をグルグルと回っていた。
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