LLE <短>



どんなカタチでも、あたしという存在を、先輩が知ってくれていたっていう、紛れもない事実。


それだけで、空も飛べちゃえそうなくらい、なんだってできてしまえそうな……

そんなバカげた錯覚に陥っちゃうほど、おっきなおっきな出来事だった。



この日は、あたしにとって、誕生日よりもクリスマスよりも、

ずっとずっと大事な、宝物の記念日になった。



多分この恋は、あの春の日に偶然落っこちちゃっただけの、落とし穴だったんだと思う。


だけど、あたしはもう、這い上がることはできなくて。

今はもう、そこから抜け出す気も、なくて。



あたしは、息を呑んで踏み出した。


近寄ってみたら、もっともっとスキになっていた。



この先、二人だけで刻める未来はなくたって、

二人が、同じ空間で笑い合う、あたしだけが記憶に記すだけの未来だけしかなくたって……


別に、構わない。



それでもあたしは、先輩の傍にいたい。


許されるのなら。

……できるだけ。



あたしの心を、そのまま映し出したような、真っ赤に熟れた葉っぱを見つめながら、

強くもないクセに、そんなことを本気で考えた。



気まぐれに差し出された先輩の手を取って、

何かを掴みたくて、手を伸ばした、秋――

< 12 / 51 >

この作品をシェア

pagetop