LLE <短>
chance to
「せんぱ〜い!先輩先輩ー!!」
「うっわ!?またお前かよ」
「またって言い方はないじゃないですかぁ。愛しい愛しい先輩に会いにきたんですよー」
――春爛漫。
ぷかぷかと軽そうな雲が浮かぶ空の下。
真っ黒な学ランで隠された、先輩の日焼けした、筋肉質の逞しい腕に絡み付いて、
あたしは今日も、斜め上にある先輩の顔を見上げる。
何度見つめたって、飽きることのない、愛しい顔。
「お前なぁ……ま、いいや」
そんなあたしに、先輩はひとつだけ、大きなため息をあたしの頭上にポトリと落とすと、
強張っていた肩の力を抜いて、抵抗するのを止めた。
別に受け入れてくれてるわけじゃなくて、どんなに文句を言っても、止めないあたしに、
ただ、呆れてるだけだってことは、ちゃんとわかってるんだけど。
でも、いいんだ。
それでもあたしは、十分すぎるくらい、嬉しいんだから。
“簡単にスキとか言うな”
“イチイチひっつくな”
最初は、幾度となく眉間にシワを寄せて、お父さんみたいな口調であたしを叱っていた先輩だけど、
全然懲りないあたしに諦めたのか、最近はそれすら言わなくなった。
ほんの些細なやり取りがシアワセで、自分勝手だって承知しながら
あたしは今日も、迷惑そうに形のいい眉を寄せて困る先輩を見て、笑うんだ。