LLE <短>



先輩は、サッカーがダイスキで。


直接聞いたことはないけれど、多分あたしが先輩のことを考えてるのと同じくらい、

寝ても醒めても、今の先輩の頭は、サッカーで支配されているんだろうと思う。



誰よりも才能に溢れてるクセに、誰よりも努力してる。

……そんな人だった。


そしてあたしは、そんな先輩が、スキでスキでたまらなかった。




高校3年生の春。

先輩にとって、いよいよ引退が近付く、夏の大会前。


あれから、数週間が経って……

先輩の日常は、やっぱりサッカー一色だ。



毎日のように繰り返される、ハードな練習。


十分すぎるくらいに激しい練習が終わった後も、

ゴールの周りに散らばる、無数のサッカーボールは、先輩の努力、そのものだった。



「せんぱーい!」

「おう。気を付けて帰れよ」



あまりにアッサリと返されてしまったものだから、あたしは口ごもる。



「先輩……」

「ん?」

「たまには一緒に――」

「ゴメン。今日もこの後、練習してくから」



最後まで言い切る前に、遮られる言葉。



「じゃあ……あたし待ってる!」

「ダメ」



躊躇いがちに言い出した言葉も、バッサリと切り落とされる。

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