LLE <短>



先輩と付き合ってから、気付いたら、あたしは前より、何も言えなくなってしまっていた。


先輩に、メンドクサイって思われるのがコワくて。

もういいや、って投げ出されるのがコワくて。



やっと手に入れたはずのカタチは、かえってあたしを臆病にさせていた。



「なんで!」

「なんでって。俺、集中すると時間忘れちゃうし。いつまでやるかわかんないから」

「大丈夫だよ。待ってるよ」

「それに、暗くなったら危ないだろ?」

「でも……」

「な?だから帰れ」

「……」



まるで、幼いコドモに言い聞かせるように、優しい口調で、諭す先輩。


先輩に嫌われたくないから、あたしは、聞き分けのいいフリをする。



優しい先輩に、あたしは頷くしかない。


先輩は、ヒドイ。

先輩の優しさは、あたしに何も言えなくさせる。



「また明日な」



そう言って、あたしの頭に触れて、軽く手を二回弾ませて一笑した後、

くるりと方向転換して、またグラウンドの真ん中へと、足取り軽く戻っていった。



一度も振り返らない。

先輩の視界は、もう白と黒に奪られちゃったから。

< 21 / 51 >

この作品をシェア

pagetop