LLE <短>
先輩と付き合ってから、気付いたら、あたしは前より、何も言えなくなってしまっていた。
先輩に、メンドクサイって思われるのがコワくて。
もういいや、って投げ出されるのがコワくて。
やっと手に入れたはずのカタチは、かえってあたしを臆病にさせていた。
「なんで!」
「なんでって。俺、集中すると時間忘れちゃうし。いつまでやるかわかんないから」
「大丈夫だよ。待ってるよ」
「それに、暗くなったら危ないだろ?」
「でも……」
「な?だから帰れ」
「……」
まるで、幼いコドモに言い聞かせるように、優しい口調で、諭す先輩。
先輩に嫌われたくないから、あたしは、聞き分けのいいフリをする。
優しい先輩に、あたしは頷くしかない。
先輩は、ヒドイ。
先輩の優しさは、あたしに何も言えなくさせる。
「また明日な」
そう言って、あたしの頭に触れて、軽く手を二回弾ませて一笑した後、
くるりと方向転換して、またグラウンドの真ん中へと、足取り軽く戻っていった。
一度も振り返らない。
先輩の視界は、もう白と黒に奪られちゃったから。