LLE <短>
車通りの少ない道で、カタカタと二人分のタイヤ音を鳴らして、あたしたちは並んで歩き出す。
背の高い先輩の刻む歩幅は大きくて、あたしは、離されないように、必死で足を動かした。
「先輩、歩くの速いよ」
「あぁ。お前チビだもんな」
「チビじゃないもん!」
「はいはい」
あたしをからかう先輩。
それでもちゃんと、あたしに合わせて、ペースを落としてくれた。
何か喋らなきゃ。
せっかく、先輩が隣にいるのに。
そう思うのに、どうしても、言葉がうまく出てきてくれなかった。
なんでだろう?
誰よりも先輩の傍にいる、今この瞬間、あたしは世界一のシアワセ者のはずなのにね。
先輩と歩く30分は、あっというまで、いくら沈黙だって、
遥か遠くに見えていたはずの、堤防にかかった線路は、だんだんと近付いてくる。
陽が長くなり始めた、初夏の一歩手前。
沈みかけた夕日が、ぼんやりと、かろうじて二人の前に、伸びた影をつくる。
「お前、何かあった?」
ふたつのデコボコの影。
大きな影が動いて、小さな影に重なる。
先輩が、あたしを覗き込む。
「何で?」
あたしは、とっさに顔をそむけて答える。
必死に平静を装って、いつも通りに笑っているつもりなのに、
声も上ずって、頬も引きつっているのがわかった。