LLE <短>



あたしの意識を越えたところで、勝手につくられた涙が、

瞬きも忘れた目から、頬に向かって筋をつくっていた。


ついこの前の春、嬉し涙をくれた先輩は、今度は正反対の涙をくれる。


いつのまにか、ふたつの影も消えていて、暗闇と静寂が、二人を取り囲んでいた。



「もういいよ、先輩」

「え?」

「もう、付き合ってくれなくていいよ」



タイヤを止めて、あたしは立ち止まる。

あたしは、一生自分からは告げることのないと思っていたセリフを先輩に向けた。


あたしの突然の行動に、遅れた先輩も、少し前で立ち止まると、

後ろを振り返って、真剣な眼差しを、あたしに向ける。



「……どういうことだよ」



先輩は、身を乗り出して、あたしの腕を掴んだ。



優しく触れてばかりだった、先輩の大きな手。

その手が今、痛いくらいに力強く、あたしの腕を捕まえる。


だけどあたしは、その手を振り払って、先輩から一歩下がった。



あたし、バカかな?

憧れ続けて、焦がれ続けて、追いかけ続けた先輩の手を、自分から手放すなんて。


自分から先輩と離れるなんて……

まさか、こんな日が来るなんて、思ってもみなかったな。



あたしは、欲張りだから。


もっと一緒にいたい。

もっとあたしを見てほしい。



もっと、もっと――

って、キリのない望みが爆発しちゃったんだ。



やっぱりバカだよね。

もっと頑張んなきゃいけなかったんだよね。


これって、愛が足りないってことなのかな?

まだまだスキが足りないってことなのかな?

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