LLE <短>
だけど、一番コワかったのは、何よりもダイスキだった、先輩のサッカーをしてる姿に、
また、あたしの全てを奪われちゃうことで……
グラウンドに踏み込む勇気が、どうしても出なかったあたしは、
今日も、この身を小さくして、その横をすり抜ける。
勝手に部活も休んだりして、いろんなものを投げ出してしまったあたしは、無責任で最低なヤツだと思う。
だけど、先輩一人の存在だけで、あたしのリズムは狂っちゃうんだから、仕方ない。
だって、あたしの世界はずっと、先輩中心に回ってた。
多分、まだ今も――
「あ、ハルナちゃん」
聞き覚えのある声に、あたしは立ち止まる。
「おーい。ハルナちゃーん!」
「タツヤ先輩……」
フェンスの中から、先輩と同じ格好をした姿が、あたしを呼び止めた。
あたしは、無意識のうちに、忙しく目を動かして、辺りを見渡す。
先輩の姿が、視界の中にいないことを確認して、あたしはホッと胸を撫で下ろした。