LLE <短>



グラウンド中が、一瞬の静けさに包まれて、試合開始のホイッスルが鳴る。


先輩が真っ直ぐに目指して、走り続けた試合が、始まった。



気付けば、今朝、遠くの山に見えていたグレーの怪しい雲が、走り始めた先輩の頭上を覆っていた。



フィールドの外からも中からも生まれる、大きな掛け声。

幾重にも重なる、力強い足音。


そのひとつひとつが、しっかりとあたしの胸の芯に刻みつけられる。



前半を終えて、束の間の時間を置いた後、また先輩たちはグラウンドへと散っていく。



いつのまにか、降り出した雨。

火照った体に、まとわりついてくる雨粒は、ひんやりと心地よかった。



ただ、突っ立って見ているだけなのに、あたしは、呼吸すらままならない。


あたしは、貼り付けられたように、先輩から目を離すことができなかった。



ドキドキとハラハラを繰り返している間に、後半終了を知らせるホイッスルが鳴った。


選手たちは、疲れ切った表情で、ベンチに戻ってくる。



だけど、その群集から一人だけ抜け出て、コッチに歩いてくる先輩がいた。



「なんで……」



わけがわからないまま、真っ直ぐな先輩の目に、あたしの胸は高鳴る。

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