LLE <短>



何も考える余裕がなかったのは、確かだけど、

多分、あたしのアセっている心の中に、いい想像はなかったと思う。


それは例えば、何か言われるとすれば「今さら何しにきた」とか「帰れ」とか……

そんな厳しいことを、今の先輩の顔で、突きつけられるような予感がしていた。



慌てふためいている間にも、先輩はあたしに近付いてくる。



先輩が、あたしの前で立ち止まった。

あたしの心臓の音は、最高潮に高鳴る。



先輩の右腕が上がって、あたしはとっさに目を瞑った。


だけど――



「かぶってろ」

「……え」



次に目を開けた時の先輩の顔は、やっぱり厳しい顔をしていたけれど、

違和感を覚えたあたしの頭には、真っ白なスポーツタオルが乗っていた。



乱暴にあたしの頭にタオルをかぶせた先輩は、一度も目を合わせてくれることなく、

それだけ言い捨てて、またベンチへと走り去っていく。



先輩――


あたしもう、心臓が破裂しそうだよ。



束の間、ロスタイム開始のホイッスルが、鳴り響く。

再び、グラウンド中は、たくさんの声が飛び交い始めた。

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