LLE <短>
あたし、近付きすぎたのかな?
憧れは、憧れのままでいなきゃいけなかったのかな?
よくさ、憧れは手が届かないから、憧れでいられるって言うよね。
ねぇ、先輩。
それじゃあ、これは、憧れに手を伸ばしてしまったあたしへの、罰なのかな……
気を抜いてしまえば、今にもうずくまって、
コドモみたいな大声で泣き出してしまいたい、厄介な衝動に駆られる。
その溢れ出しそうな想いを、なんとか必死に抑えこんで、
動き出すために、自転車に手を掛けようとした時だった――
「――ハルナっ!」
足音と一緒に、あたしの名前を叫ぶ声がした。
いくら聞き慣れても、決して聞き飽きることのない、愛しい愛しい声に、あたしは足を止める。
だけど、それ以上はコワくて、あたしはどうしても、振り返ることができなかった。
――“ハルナ”
あれだけ頼んでも、一度も呼んでくれなかった名前……
それこそもう、何十年も聞き飽きた、ありきたりな名前なのに、
先輩に呼ばれると、まるで、魔法にかけられたみたいに、心が大きく揺さぶられる。
先輩の声は、心の中で、こんなにも切なく響く――