LLE <短>



「あっ!!」

「いきなりデカい声出して、今度はなんだよ」



顔をしかめながら、大げさに耳を塞いで、あたしを睨む先輩。



「ね、ね。先輩!」

「あ?」



あたしは、つまらない単語帳の中に、ちょっとした発見をする。



「“chance”って、何かに似てると思わない?」

「は?」



またくだらないことを言ってるって顔した先輩にはおかまいないで、

あたしは“a”と“n”の間に“lle”を書き足してみた。



「ほら!“challenge”になった」



大発見でもしたようなキモチで、あたしは得意気になって、先輩に単語帳を向けてみせる。



「アホ。それだったら“challence”だろうが」

「……あ」

「だからお前はアホなんだよ」



先輩は、片唇だけで笑うと“c”の上に×印をつけて、その上に“g”を重ねた。



「これで“challenge”」

「やっぱ先輩はかしこいね」

「俺がかしこいんじゃなくて、お前がアホなだけ」

「えー」



バカにされることすら、喜んじゃうんだから、あたしはもう、救いようもないのかもしれない。

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