LLE <短>


――――――――――………

――――――………



希望と期待に満ちた、高校1年生の、春。


桜の花びらが、そよ風で舞い上がる景色の中、まだまだ体に馴染んでいない、真新しいブレザーを着て、

知り合ったばかりの友達と一緒に、何気なく見学に行ったサッカー部。



穏やかに照りつける太陽の下。


キラキラと汗の粒を反射させながら、ゴールだけを真っ直ぐに見据えて、

息を切らしてグラウンドを走り抜ける先輩の姿に、あたしの瞳は、一瞬で奪われた。



心を鷲掴みにされた気分。


それは、恋に堕ちた瞬間だった。



恋って“する”ものじゃなくて“堕ちる”ものなんだって。


いつだったか、愛に慣れたどこかの誰かが、得意そうに語っていた言葉。

その意味が、初めてわかった気がした。



もっともっと近付きたいと思ったのに、まだまだ幼いあたしの心には、勇気が足りなくて、

殺到するマネージャー候補を、唇を尖らせて、ただ横目で見つめていた。



それでも、のらりくらりと、行方知れずの想いは動き出す。


だけど、このままだったら、確実に少しの風に吹き飛ばされちゃいそうな……

そんな、小さな小さな恋。



芽吹き始めた若葉にそっと触れて、これから咲かせる花の色を、想像した。


“スキ”ってキモチが、こんなにも身近に転がっているものだったなんて、

こんなにも簡単に、見つかってしまうものだなんて、思いもしなかった。



先輩の名前すら知らずに通り過ぎていった、蕾の春――

< 6 / 51 >

この作品をシェア

pagetop