-roop-
「あ~!惜しい!千夏いまの見たか!?ギリで落ちるとか悔しい~!!よし、もう一回!!」

今度は真剣な顔で機械を睨む誠さん。

ゆっくりゆっくりと動く機械。


「今だ!」


誠さんが勢いよくボタンを叩くと、方向を変えた機械がうさぎのぬいぐるみに向かっていく。


「よし!これいけたぞ千夏!」


静かに動く機械を見つめたまま、少年のような顔で言う。

誠さんの狙い通り、機械はうさぎの胴体をがっしりと掴んだ。


「よしよしよし…そのままそのまま…」


呪文のようにぶつぶつと呟く声に、少し笑いそうになってしまう。




ガシャッ


「よっしゃー!!」


丸い穴をくぐり抜けたぬいぐるみが、ポトンと取り出し口に落ちて来た。

直ぐさまそれを拾って私に差し出す。


「ほいっ」


無邪気な笑顔に…心臓が反応する…。


「……ありがとう…」


「どういたしましてっ」


彼の手から渡されたうさぎのぬいぐるみが、最初に見た時の数十倍も愛しく思える気がした。

どんなに押さえ付けても、じわ…と溢れ出してくる甘い感覚を、このぬいぐるみを抱きしめて堪えた。


「…嬉しい…」


「そっ…そうか?そんなに喜ぶんなら、ぬいぐるみのあと十個や二十個くらい…」


「まっ…誠さん!私これで十分だからっ」


再び機械に向かおうとするのを慌てて制する。

誠さんは頭を掻きながら機械に近づく足を止めた。


「そうか~?…なら、いいかっ」


二カッと白い歯を覗かせて笑う。


いつしかその笑顔が

千夏さんではなく本当の自分に向けられたものだと錯覚するようになっていた。


そして…そのことに気付いていたのに、私はわざと考えないようにしていた。


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