-roop-
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車を下りて、少し山道を登る。

小さな虫の鳴き声が夏の夜の涼しさを引き立てていた。



「涼しいな~。」


「うん、ほんと。」


二人の足音と小さな虫の声に、二人の言葉が混ざった。


「昼間はあーんなに暑かったのになぁ」


「うん。それに山の中だから、他のとこよりも涼しいのかもね」


「そうだな」


微笑みながら誠さんが言う。


他に誰もいない暗くて静かな山道。

なのにちっとも怖くなかった。


むしろ少し先を歩く大きな背中が視界に映っているのが心地良いい。


鏡もガラスも、今の私を…千夏さんを映し出すものはいま此処に何ひとつない。


時折振り向いて笑いかける誠さんの笑顔が、本当の自分に向けられている気がした。
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