-roop-
本当なら

本当なら怖いのかもしれない。


自分ではない…誰か別の人を見ている貴方の傍にいるのは。



どんなに見つめられても、それが本当の自分に向けられたものでないことは…

怖くて怖くて

たまらないものなのかもしれない。



けれど

貴方の優しさが、その恐怖を消し去ってくれた。

まるで、本当の私を包み込むような貴方の優しさが消し去ってくれた。



私に違う呼び方で名前を呼ばれたとき

想い出の品を片付けるとき

私が数え切れないくらいの日々を過ごした部屋へ入るとき

どんな時も並んでいた二つの枕を引き離したとき

剥がしたカレンダーの跡にポスターを貼ったとき

いつも一緒に吸っていたはずの煙草が吸えなかったとき



貴方はどれだけ苦しんだ?

貴方の胸はどれだけ痛んだ?



私への優しさと引き換えに…

どれだけの涙を…貴方は流したのだろう…?



例えそれが私のためではないとしても、

貴方の優しさは確実に、一つ残らず私の心を包んでいるのに


貴方を…

白い歯を零して笑う貴方を…

無邪気に笑う貴方を…





「怖いなんて…思うわけないじゃない…っ」



誠さんは優しく私の頭を撫でた。




「……それなら…いい…」


「誠…さ…」


< 119 / 293 >

この作品をシェア

pagetop