-roop-
「えっ……」
「…ってごめん!何言ってんだろな、俺!ははっ…」
そう言って頭をかきながら、誠さんはまだ長さの残る煙草を灰皿に押し付けた。
「さ~て明日も早いし寝るか!」
誠さんは私の目を見ずに笑って、窓に向かっていく。
まだベランダの手摺りを掴んだままの私。
誠さんはわざと明るいトーンで話しながら、カーテンをめくる。
「ほーらっ、千夏も早く寝ないとお肌にわ…」
「いいよ…?」
「…千…夏…?」
私がゆっくりと振り向くと、誠さんはリビングに戻ろうとする途中の姿勢で静止していた。
「…私……大丈夫だよ…?」
まだ目を見開いたままの誠さんをじっと見つめる。
嘘じゃなかった。
むしろ本当の私じゃなくていいから、抱きしめて欲しかった。
貴方が千夏さんを…
本当の千夏さんを想って抱きしめたとしても
その腕の強さと温もりを感じているのは、此処にこうして生きてる私なんだ。
その事実だけで…良かった…。