-roop-
冷たい温もり
小雨だったはずなのに、いつの間にか雨はその勢いを増していた。
身体に打ち付ける激しい雨。
私はただがむしゃらに走った。
駆け出した途端に呼ばれた声が、頭の中をぐるぐる回る。
『千夏』
違う
『千夏』
違う
『千夏』
………違う………!!!
私は…千夏さんなんかじゃないんだってば…
「…っ……くっ…」
誠さんに愛されてる…
千夏さんかじゃないんだってば……!!
「…っ…はぁ…はぁっ……!」
雨に濡れた両の手を見つめる。
抱きしめた誠さんの温もりまで流されてしまうのが怖くて
零れてしまわないように強く拳を握った。