-roop-

「誠…さん………」




私は震える手を、誠さんの雨に濡れた輪郭に添えた。

誠さんは切ない瞳で、息を噛むように私のその手を強く握る。



もうその手は

怯えて遠慮がちに私を包み込んでいた手ではなかった。


泣きそうに笑いながら小さく私の頭を撫でる手ではなかった。



強く…

強く握り締められた手が狂おしいほど嬉しかった。




「誠…さん……」



無理なんかしてないよ…?

無理なんかしてない…

私は本当に

本当にそう思ったの…





「……結婚式……しよう……?」




私の手を握る誠さんの手が、ビクッと震えた。

私たちを押し潰すくらいに降り注いでいた雨が、再び小さな粒に戻っていく…。



「千…夏………」



ほんとだよ…?

嘘じゃないよ…?

千夏さんの存在は…

今の私の存在は嘘かもしれない…



でもね…

いま此処に在る私の想いは

決して嘘なんかじゃない…







「……貴方が……好き……」

< 171 / 293 >

この作品をシェア

pagetop