-roop-

「…心臓は動いてないわ。」


青ざめた私の横で、彼女の静かな声が響く。

心臓に当てたはずの私の右手は、少しもその振動を感じ取れなかった。

戸惑いつつも、今、彼女の口から出た言葉を認識しようとしてみる。



「…でも…でも今…ドクンって音が…」


私は訴えるように…縋るように呟いた。

確かに動く音がした。

命を刻む音が、確かに聞こえたのに…



すがる視線を払うように彼女は言った。



「それは…体の記憶。

信じられないことが起こると心臓が拍動を活発にする。

貴方の体が、生前の機能を覚えていただけ。

実際には心臓は…動いてはいないの。」



私の視線は彼女を滑り落ち、自分の右手に落とされた。

もう一度心臓の辺りに触れてみる。

体の中では確かに、ドクドクドクと心臓がは血液を送り出す音と振動を感じる。

なのに…

私の右手は、あまりにも静かな自分の左胸に戸惑っていた。



「か…体には記憶があるのに…」


力なく右手を下ろす私に彼女は追い撃ちをかけた。



「…地獄に行けば、それすらなくなるわ……。」


ドクン。


空虚な鼓動が、私の中だけで響いた。



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