-roop-
「あ、この子が例の事故から回復した彼女?」
男は愛想笑いで私と誠さんの顔を目で往復しながら言う。
誠さんの表情は、今まで見たことないくらいにその色を失っていた。
「………っ」
ドクッ
誠さんが言葉を噛み締める音が聞こえた…。
誠さん……?
「な、何怖い顔してんだよ柏木~!あ、もしかして…高蔵商事のことまだ根に持ってたりする?」
「……っ!!」
私の手を握る誠さんの手に痛いくらいの力がくわわった。
--『取引先を……取られたんだ…なぁ…千夏…誰にだと思う…?』--
--『親友だと…思ってた男にだよ…』--
誠さんっ……!!
「ちなみに今から打ち合わせっ。お前にもらった情報生かして頑張ってくるよ!」
男はそう言いながら、鞄から書類らしきものを覗かせる。
「でさ柏木、今度新しく担当…」
「千夏行くぞ」
誠さんは突然私の手を引いた。
「えっ…誠さ…」
「おい柏木っ」
感じたことのないくらい強い力で手を引かれる。
困惑した表情で取り残された男性と、ただひたすら私の手を引く誠さんの背中を目で往復する。
「ねっ…ねぇちょっ…誠さんっ…痛っ…」
まるで道具のように私の手を握る誠さんが少し怖かった。
私の声に見向きもせず、ただひたすら乱暴に歩き続ける。
「まっ…誠さんっっ!!」
「………」
やっと手の力が緩み、誠さんはその足を止めた。