-roop-
私は思わず俯いた。
まるで他人事のように足元を這う白い霧に少し腹が立つ。
クシャ…
再び彼女がポケットから煙草の空き箱を取り出す音に、視線を上げる。
彼女は何も入っていない萎れた赤い箱を愛おしげに見つめていた。
「彼がね………好きな銘柄なの……マルボロの赤…」
少し淡く染まったような頬…
年上のはずの彼女に、思わず少女らしさを感じてしまった。
「私も初めは…煙草は…苦手だったんだけど……………」
彼女は私に視線を向けることなく、手の平の中で形を変えていく箱をただ見つめたまま話を続ける。
「…………丁度………貴方の年くらいのとき……いじめに遭っててね…」
「いじ…め…?」
彼女の口から出た意外な言葉に、私は息を詰まらせた。
真剣な表情で自分を見つめる私の視線に気づき、彼女はカラッと笑う。
「あ、今私のキャラじゃなーいって思ったでしょう?」
「えっ…いや……」
「すーぐ顔に出る」
表情を崩して笑う彼女に戸惑う。
サバサバとした物言いと、どちらかというと少年のような彼女の風貌は、いじめと受けていたという過去とは正直、結びつかなかった。
本当の気持ちを隠すように表情を崩して笑った彼女の本意が分からず、私は言葉を濁らせた。