-roop-
「結婚式って言っても…お金ないから…二人で指輪の交換しようか、くらいなんだけどね…」
無理に明るい口調を搾り出そうとする彼女の脳裏には、きっと幸せな海辺での二人が浮かんでいるのだと思った。
その海どころか、相手の顔すら全く分からない私の脳裏でさえ、海辺で寄り添う男女の幸せそうな光景が浮かんでいたのだから…。
あとたったの一ヶ月で迎えるはずだった幸せな光景…
迎えられないわけがないと信じて疑わなかったであろう……幸せな光景…
最高の幸せを目前に、最高の幸せを失ってしまった彼女。
一番愛しい人ともう会うことは叶わない彼女。
彼女のことは何も知らないけれど、悲しみを押し殺したような苦い微笑みに、私は胸が詰まっていくのを感じていた。
突然、彼女は私の両肩を掴んだ。
「……?」
私は突然のことに戸惑い、視線を泳がせる。
戸惑った揚句、やり場を失った目が再び彼女の目を捕らえた途端、彼女は真剣な面持ちで口を開いた。
「…お願い。私の代わりに…彼と結婚式を挙げて…!」