-roop-
忘れられた想い
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コンコン
ガラッ
「柏木さん…落ち着きましたか?」
千夏の担当医師の風間は、千夏の病室を後にしてしばらくした後、今度は柏木誠が休む部屋を訪れた。
「先生…」
ベッドに横たわる誠から力なく零れる声に、風間は胸を痛めた。
風間はそれを隠すように穏やかに微笑み、誠のベッドの近くの椅子に腰を下ろす。
「先生…千夏は……」
縋るような目で見上げる誠に、風間は言葉選ぶようにして話し出した。
「柏木さん……落ち着いて聞いて下さいね…」
静かに零される風間の言葉に誠は息を飲む。
「千夏さんは……事故の衝撃で………やはり記憶喪失になっていると思われます…」
「記憶…喪失…っ」
誠は言葉を詰まらせた。
嘘であって欲しいと…さっきのは冗談でしたと…風間の口からそんな言葉が出る…
誠の抱いた淡い期待は打ち砕かれた。
誠も本当は分かっていた。
あれは冗談なんかではないと。
千夏の自分の顔を見る瞳が、いつもの愛おしむような瞳でなかったことは、痛いほどに分かっていた。
恋しくて恋しくて
また声が聞ける日を気が狂う程に待ち侘びた人が、まるで他人を見るように自分を覗き込んでいたことくらい…
誠には痛い程分かっていた。
「千夏の記憶は………戻るんですか…」
静まり返った病室に、誠の小さな声が響く。