-roop-


「千夏さんは………事故以前のことを…何ひとつとして覚えてはいません…。…それが…どれだけ精神を混乱させることか…分かって頂けますね…?」


「………っ」


誠は頷くこともなく唇を噛み締めて黙り込んだ。




「…自分が誰か分からない…なのに皆は自分を知っている…そして思い出せ、思い出せ…と延々と昔話を語りかける…

そうすると…事故前の人格と今の記憶を失っている人格が…分離してしまう可能性があるんですよ…」


「人格が…分離…?」


誠はゆっくりとベッドから身体を起こした。



「えぇ…つまり…皆が求めているのは前の自分で……今の自分は…必要ないんだ…と思ってしまうんです…」


「そっ…そんなわけない!!」


突然誠は声を荒げた。
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