-roop-
「先生あのっ……千夏を…千夏をうちに連れて帰ったら駄目でしょうか…っ」
風間は笑顔で少しため息をつき、再び椅子に腰かける。
千夏と誠が郊外のマンションで同棲していることは風間も聞いていた。
しかし…
「柏木さん…」
「分かってます!今先生がおっしゃったことは必ず守ります!!家に飾ってある写真とか…想い出の物は全て片付けます!!
千夏が記憶のことを重荷に感じなくてもいいようにしますから…ですから先生っ…」
「……」
あまりにも熱心な誠の口調に、風間は黙り込んだ。
誠はそんな風間の肩を掴んで揺らす。
「いっ…一緒の時間が長い方が千夏も思い出しやすいと思うんです!!
それに側に誰かいたほうが…千夏だって寂しい思いをしなくて済む……先生っ!!」
風間はしばらく考え込んで、ゆっくりと口を開いた。
「……………記憶喪失の患者さんの心は思っている以上に繊細です。思い出すことを強要しない……約束して頂けますね?」
「…先生っ…!ありがとうございます!絶対…俺絶対約束守ります!!」
満面の笑顔で風間の手を握る誠。
つられて風間も溜息混じりに微笑んだ。