-roop-
「…でもさ、本当に…俺嬉しいんだ…また…千夏の声が聞けて…」
ギュッ
誠さんの力強い手が私の手を掴んだ。
「ちょっ…あのっ…」
私は戸惑って声を上げる。
「あっ…ごめん!…はは…そっか…そうだよな…」
彼は急いで、離した手をそのまま自分の髪に持っていった。
無理に笑いながら、ワックスで立てた髪をいじる。
「…ごめんなさい……」
「えっやっ…違う…違うよ!悪いのは俺!俺が悪いの!」
誠さんは慌てて言った。
きっと彼は、『覚えてなくてごめんね』だと思ったのだと思う。
でも私の言ったごめんねは…
『私が千夏さんじゃなくてごめんね』だった。
本物の千夏さんだったら、握られた手に、迷うことなくもう片方の手を添えるのだろう。
そう思うと申し訳なくなった。