-roop-
「千夏……」
穏やかで…どこか真剣な表情で真っ直ぐ見つめられた。
「…ゆっくりでいいから…」
「え…?」
「無理して思い出そうとか…しなくていいから…俺は……俺はずっと側にいるから……」
「……っ」
胸が、ギュッと熱くなった。
「……だから…一緒に帰ろう…?」
「誠…さん…」
私がそう零すと誠さんの表情が曇った。
「あっ…」
思わず手で口を覆う。
「誠…『さん』…か…」
俯く彼に必死で言葉をかける。
「ごっ…ごめんなさ…」
「それもいいなー!!」
「………え…?」
突然顔を上げた誠さんは、満面の笑みで明るくそう言った。
「いやぁ~さん付けも何か新鮮でいいよなー!!てか、そもそも俺は千夏より一つ年上だからね!ダブっちゃったから学年は一緒だけどっ」
誠さんは白い歯を零しながら明るい口調で言う。
精一杯の笑顔と精一杯の優しさに…胸の中がじわ…と熱くなっていく…
「…俺…今の千夏でいいから…さん付けでも何でも構わないよ…?傍に…いさせて欲しいんだ…」
誠さんの手がピクッと動いて止まった。
本当なら、その手で千夏さんを…愛しい人を力いっぱい抱きしめたいのだろうと思った。
だけど私には…そんなことは関係ない…
ただ…
ただあの約束を…果たすだけなんだから…
ただ…彼を安心させれば…
私は地獄になんて行かなくて済むんだから…
そう思いながらも、彼の真っ直ぐすぎる思いに、申し訳なさを感じずにはいられなかった…。