-roop-
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お風呂から上がると、誠さんはリビングに布団を敷いていた。


「誠さん…?」


私の声に振り向いた誠さんは、再び視線を戻し、布団を敷き続けた。


「千夏のベッドは隣の部屋にあるよ。布団ちゃんと干しといたから安心してなっ」

そう言ってカラカラと笑う。

私は水気を持った髪をタオルで押さえながら、少しだけ誠さんに近づいた。




「誠さんは…?此処で寝るの…?」


「あぁ、俺はね、いっつもリビングで寝てたの。お前めちゃくちゃ寝相悪いからなっ。最初は一緒に寝てたけど途中でギブよ~」




…嘘だ。


誠さんが今リビングに敷いた布団はまだ、新品だった。



記憶のない私からすれば、誠さんは赤の他人の男性。

さすがに同じベッドで寝かせるわけにはいかないと、急いで買って来たのだろう。



「おっしゃ!出来た!…って千夏、お前ちゃんと髪乾かして寝ろよ?風邪ひくぞ。」


誠さんは、私のまだ濡れた頭をポンと叩いた。


「よしっ俺も風呂入ってこよーっと。あ、千夏、先に寝てていいからな?」


棚から着替えを取り出しながら誠さんは言う。



「うん…」



濡れた髪に…温もりが染み渡っていく…。


無意識に胸が熱くなる。


誰かに触れてもらえたことが…素直に嬉しかった。
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