-roop-
一人になった部屋で、ふと両手を眺める。
この身体が…毎日生活していた部屋なんだ…。
当たり前だが何ひとつ想い出のない他人の部屋。
まるで自分の心だけがのけ者になったような気がして、寂しくなった。
…静かな部屋に…小さくシャワーの音が響く。
本当の自分さえ分からなくて、何も分からないまま他人として生きている。
本当なら怖くて怖くてたまらないことなのかもしれない。
けれど、例え本当の自分に向けられたものではなくても、誰かに優しくされるのが心地良かった。
大切にされるって…愛されるって…
…きっとこんな感じなんだろう…
本当の私は、こんな気持ちを知っていたのだろうか。
誰かに守られる感覚を知っていたのだろうか。
こうして…穏やかに窓から外の月を眺めていられるのは、きっと微かに聞こえるシャワーの音が
『君はひとりじゃない』
そう言っているように思えるからだろう。
生乾きの髪をタオルで包む。
--早く…お風呂から出て来て欲しい…--
………何言ってんだろ…
自分の中に浮かんだ誠さんの笑顔を慌てて振り払う。
私は乱暴に髪を乾かすと、寝室だと言われた隣の部屋の扉を開けた。