-roop-
ふと視界に入った誠さんの姿。
そして部屋に戻ろうとしたとき…誠さんは握りしめた赤い箱をじっと見つめて、ゆっくり俯き、呟いた。
「…………千夏………っ」
ドクンッ
暗いベランダで、手摺りに顔を埋める誠さんの姿が…胸に突き刺さった。
咄嗟に後ろに下がる。
……胸が苦しい…
私は…私は本当に来て良かったのだろうか…?
余計に彼を苦しめてるだけじゃないのか…?
綺麗な想い出を抱いたまま離れるのと、何ひとつ覚えていないのに傍にいるのはどっちが辛いのだろう。
ねぇ千夏さん…これも…比較しても答えは出ないの…?
煙草の箱を握り潰す音が響いた。
私はやりきれない気持ちのまま、そっと真っ暗な寝室に戻った。