-roop-
カチャ


リビングに戻ると、誠さんはコーヒーを飲んでいた。

パンはまだ長方形を保ったままだ。



--待ってて…くれたんだ…---



テーブルの上で、新品の色とりどりのジャムよりも、一つだけ光輝くマーガリン。

一つだけ…新品じゃないマーガリン…

二人がいつも……使っていた………



「…いただき…ます…」


私は迷わずマーガリンを選んだ。



きっと二人は…千夏さんはマーガリンが好きだったんだ。

気を遣って色々買い揃えてくれた誠さん。

けれど、私と千夏さんの共通点を見つけることが、誠さんを一番喜ばせることになると私は分かっていた。

黙ってパンにマーガリンを塗る私を見て、誠さんは初めて心からの微笑みを見せてくれたような気がした。


きっと誠さんも、私がわざとマーガリンを選んだことに気付いていたのだと思う。




誠さんも何も言わない。

私も何も言わない。

静かにパンをかじる音が響くリビング。





けれど、何故か心地良かった。
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