-roop-
無邪気
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行き先を伝えられないまま、誠さんの車に乗り込む。
病院からマンションに向かうときはタクシーだったから、彼の運転する車に乗るのは初めてだった。
病室よりもマンションよりも狭い空間に二人だけ。
心臓がその音を速めて行くのが分かった。
それを隠すように口を開く。
「ね、ねぇ何処行くの?」
「んー?元気が出るところっ」
誠さんは私を見ないまま笑顔でそう答えながらエンジンをかけた。
しなやかにハンドルを滑る誠さんの指。
胸がドクンッと音を立てた。
後ろを確認するときに振り向く顔が近くて、身体が強張る。
何を…何を意識してしまってるんだろう……。
誠さんがする一つ一つの仕種に、自分の心臓が反応してしまうのが信じられなかった。
違う。
違う。
今のは私じゃない。
きっとこの身体が…千夏さんが反応したんだ。
……私じゃ…ない…
甘い疼きを消すように、私は強く拳を握った。
--ごめんなさい誠さん…
いま貴方の隣にいるのは愛しい千夏さんではありません…--
ふと視線を向けた窓側には、悲しい顔をした千夏さんが映っていた。
行き先を伝えられないまま、誠さんの車に乗り込む。
病院からマンションに向かうときはタクシーだったから、彼の運転する車に乗るのは初めてだった。
病室よりもマンションよりも狭い空間に二人だけ。
心臓がその音を速めて行くのが分かった。
それを隠すように口を開く。
「ね、ねぇ何処行くの?」
「んー?元気が出るところっ」
誠さんは私を見ないまま笑顔でそう答えながらエンジンをかけた。
しなやかにハンドルを滑る誠さんの指。
胸がドクンッと音を立てた。
後ろを確認するときに振り向く顔が近くて、身体が強張る。
何を…何を意識してしまってるんだろう……。
誠さんがする一つ一つの仕種に、自分の心臓が反応してしまうのが信じられなかった。
違う。
違う。
今のは私じゃない。
きっとこの身体が…千夏さんが反応したんだ。
……私じゃ…ない…
甘い疼きを消すように、私は強く拳を握った。
--ごめんなさい誠さん…
いま貴方の隣にいるのは愛しい千夏さんではありません…--
ふと視線を向けた窓側には、悲しい顔をした千夏さんが映っていた。