お兄ちゃんといっしょ。

変わらない、その言葉を聞いて、彼は何とも言えない顔で溜め息をついた。

変化がないということは、安心できることでもある。
まだ犯罪まがいの事をする気配はない、という意味でだ。

同時に困ることでもあるのだが。

「てゆうか、いいの?私と帰ってるとこお兄ちゃんに見られたら何されるかわかんないよ」
「いい。その時はお前連れて逃げる」

バカだな、と思う。
そんな状況で私連れて逃げたら、それこそ大変なことになるのに。

何言ってんの。そう言おうとして彼を見た瞬間、彼が真剣な顔をしていたことに気付いた。
視線は前方に固定されたまま、彼は足をゆっくり止める。

「……殺されるかもな、俺」

はぁ、と息を吐いて笑う彼。
私がつられて足を止めたのを確認すると、彼は再び真剣な顔でこちらを見る。

私は瞬時に悟った。
これから何を言われるのか、何が起きるのか。
わかってしまった。でも、どうすることもできない。どうすればいいかわからないのだ。

「俺、さ」

溜め息をつき、彼は緊張した面持ちで口を開く。
そして。

「お前が、」
「ねぇ、何してるの」

彼の言葉に、聞き慣れた低い声が被さった。
「帰りが遅いなって思って探しに来たら」

何してるんだか。
足を止めた私達の前方。兄は口元だけで笑って立っていた。

「誰が言ったの?俺の妹と話していいって、見ていいって、並んで歩いていいって」

呟くように言いながら、兄は歩み寄る。
淡々とした足音を響かせて、こちらに近寄ってくる。
怖い、怖くて仕方がない。

「おい!!逃げるぞ!!」

動くことのできない私の手をとり、彼が動き出した。
が、兄の動きは、その速さをいとも簡単に上回っていた。

「誰が触っていいって?」

ねぇ?
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