お兄ちゃんといっしょ。
……と、兄はだいたいこんな調子である。
もうお気付きと思われるが、私の兄が癒し系と言われる所以はこの天然(むしろ鈍感)加減から来ているのだ。
結局、兄の発言に呆気にとられた女子生徒は、どうしたらいいかわからなくなったようで逃げてしまった。
だから言ったのに、兄さんに想いを伝えたいのなら主語をハッキリ、そして意味を明確に、と。
「何だったのかなー?変な子だね」
変なのはアンタだよ。
言ってやろうと思ったが「何がー?」で済まされるのは予想済みだ。
「……よくそこまで鈍感でいられるよね……」
「えっ?何が?」
「何でもない」
ため息と同時に漏れた呟きに、兄が反応する。
そっけなく返事を返して教室へ戻ろうとして、私は固まった。
「……先輩……」
「あっ、山本だー」
ポツリと呟くように言うと、兄が後ろから気の抜けるような声で言った。
山本先輩、他ならぬ私の想い人で、兄と同じクラスの男子生徒である。が、
「……あの人……誰……?」
「ん?あー、一組の川中さんだね。なんか、付き合ってるらしいよ」
聞かなくたってわかる。だってあんなに楽しそうに笑ってるんだから。
嘘だ、と言い聞かすが、目の前を通る幸せそうな二人は明らかに現実。
「チカちゃん?」
ショックを受けて立ち尽くす私の様子を、さすがの兄も変に思ったらしい。
顔を覗きこまれたが、私は見せたくないとばかりに顔を背け、走ってその場を後にした。
「チカちゃん!」
泣くな、泣くな、そう思いながら私は、兄の声を無視して教室まで走った。
授業開始のチャイムが、重く響いた。