お兄ちゃんといっしょ。
「……はぁ……」
盛大な溜め息をつき、肩を落とす。
最早日常と化しているこのやりとりにも、もう慣れっこだ。
が、やはり。
「……重い」
部屋の鍵を閉め、ベッドに倒れこむ。
スプリングのせいで体が跳ねるが、すぐに落ち着いた。
家族愛も度を過ぎると……とは言ったが、兄の場合、度を過ぎると言うか、怖い。
犯罪まがいのことはしないにしても、あの勢いと、そして淡々とした声は妙な威圧感を与える。
怖い。兄がいつか犯罪まがいのことを起こすのではないかと考えると、とても怖かった。それでも、私に兄を拒絶することはできなかった。兄がああなったのは、私のせいだからだ。
小学生の頃だっただろうか。確か私は六年生で、4つ違いの兄は高校一年生だった。
お盆の始まる頃、私と兄は二人で親戚の家に遊びに行った。電車に乗り、駅についた時、私は知らない人に話しかけられた。
振り返った瞬間、近くに止めてあった車に引きずり込まれ、そのまま拐われた。
どんなに泣いても叫んでも、誰も気づかなかった、とても怖かったのを覚えている。
その後、私は警察の手によって救出されたが、その出来事は私と、そしてそれ以上に兄の心に大きなトラウマを残した。
警察により確保された犯人に殴りかかったり、部屋の隅でガタガタと震えていた私を力一杯抱き締めてくれたのを覚えている。
兄は優しかった。優しすぎたのだ。それ故に、歪んでしまった。