お兄ちゃんといっしょ。
ある日の帰り道。
もう少しで家に着く、というところで、私は不意に立ち止まった。

鞄のチャックを開け、中を手で探りながら目的の品を探す。が。

「……忘れた……」

筆箱を教室に忘れてしまった。
別に筆箱を忘れても、筆記用具は家にもあるのだから困らない。が、あの筆箱は兄が誕生日に買ってくれたものだ。

いくら肉親とは言えど、やはり人からもらったものは大切にしたい。あの兄からならば、特に。
だがその兄が家で待っているのも事実。今から学校に戻るとなると、確実に帰りは遅くなる。

ひとしきり考えたあと、私は学校へ戻る選択をした。
正直言うと、少しでも兄との重い会話を先伸ばしにしたい。というのが本音だった。

溜め息をつき、鞄のチャックを閉めると、そのまま回れ右をした。そして。

「ん」

見知った顔に、無愛想に筆箱を突き出された。
突然のことに驚きつつ、視覚はとっさに目の前の彼、幼馴染みである男子の存在を認識する。

「……ありがと」

驚きつつも案外冷静に筆箱を受けとると、少し戸惑いがちに鞄のチャックを開けてそれをしまう。

今目の前にいる無愛想な幼馴染みは、隣の家に住んでいて、付き合いはそれなりに長い。
もちろん事故のことも知っていて、兄のことで相談にも乗ってくれる、数少ない頼れる人物だ。

「どうなんだよ、最近」
「お兄ちゃんのこと?別に変わらないけど」
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