空色幻想曲
「ああ、ユリア姉さん」

 少し(きし)んだ音を立てて入ってきたのは、長い紫の髪をゆるく編んだ妙齢(みょうれい)の女性。
 俺を見て一瞬驚いたように目を見張ると、すぐにやわらかい笑みを(こぼ)した。

「見違えたわ……どこから見ても立派な騎士ね」

「そうか?」

 金縁のついた深緑の上着に、濃い青のハーフマント。生まれて初めて袖を通した、騎士の制服。着慣れないせいか少し窮屈(きゅうくつ)に感じて、どうも服に着られている気がする。

「お父さんが生きてたら喜んだでしょうね」

「さあ、どうかな……」

「だっていきなり選ばれたんでしょう、親衛隊長に。すごく名誉なことじゃない。さすが、お父さんの息子ね!」

 (スミレ)色の瞳にうっすらと涙を浮かべながら、随分と誇らしげだ。

「たまには帰ってきなさいよ、ちゃんと。待ってるから」

「……野暮(やぼ)だろう」

「遠慮することないわよ。向こうもリュートを家族だって思ってくださってるし」

「子供ができたら俺に構う暇はないさ」

「なに言ってるの、もう!」

 からかい半分の言葉に、頬を朱に染めて拳を振り上げてきた。俺より一回り小さな拳をそっとてのひらで受け止めると、そのまま静止して真剣な面持ちで見つめてくる。

 風にそよぐように不安げに揺れる菫色。
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