空色幻想曲
「──やはり、そうきたか」

 襲いかかってきた刃は『二つ』。
 ベンの剣と、もう一つは俺の死角──右後方から攻めてきたアルスの剣だ。

 対峙している間に視界から消えて、攻撃のチャンスを虎視眈々(こしたんたん)と狙っていたのだろう。

 だが、アルスの不意討ちを右手の剣で、ベンの斬り返しは腰の鞘を引き抜いて受け止めた。

 何かある、とは思っていた。俺を快く思っていない彼らがただの手合いで終わるわけはない、と。案の定、隻眼の死角を狙った奇襲できたか。

 戦法としては間違っていない。相手の弱点を狙うのは戦術の基本だ。
 しかし──

「相手が悪かったな」

 鍔迫(つばぜ)り合いのまま余裕の笑みを浮かべた。

 対して、二人は奇襲があっさり失敗したことに口を半開きにして呆気(あっけ)に取られている。空姫親衛隊長に選ばれた男が弱点を克服していないとでも思ったか。

 右眼の傷は、子供のときについたものだ。そのころから死角になる部分は徹底的に鍛えてきた。あらゆる状況で──それこそ眠っているときでも──反応できるように。

「むしろ俺は……右からの攻撃に強い」

 目の前で呆けていた顔は悔しさに歪み、後ろから舌打ちが聞こえた。

「お前の得物は槍だろう」
「!」

 視線だけを右後方に向ける。ろうそくの灯火が揺らめくように赤髪がわずかにおののいた。

 得意武器で勝負すればいいものをそれをしなかったのは、俺を見くびっていたからか。騙し討ちに対する良心の呵責(かしゃく)か。
 どちらにしろ、詰めが甘い。


「その程度では二人がかりでも相手にならんぞ」

「言わせておけば……!」
「いい気になりやがって! なら遠慮しないぜ!!」

 二人同時に気色(けしき)ばんで刃を弾き、突進する!
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