空色幻想曲
 シレネは眉一つ動かさなかった。内心はどうかわからないが見上げた精神力だ、とダリウスは白いあごひげをなでる。
 そして周りに人がいないことを確認した後、少し声を潜めてさらに核心をついてきた。

「……フェンネル殿は何を考えておられる? リュートを隊長に推薦したのはセージュ殿ではなく、フェンネル殿だと伺いましたが」

 セージュというのは、先代の空姫親衛隊長のこと。
 引退するとき後継を推薦するのは先代の役目だ。かつてはダリウスもそれに(なら)い、カイザーを推薦した。

 だが、リュートは違った。親衛隊とは全く関係ないはずの巡検騎士フェンネルの推薦で隊長になったのだ。

 なぜ、そんなことになったかというと。
 セージュとフェンネルは血の繋がった兄弟である。弟フェンネルの意見を、兄セージュが聞き入れた。ただそれだけのことだ。

 位が高い巡検騎士の言いぶんに先代が納得した形であれば、そこにあえて異を唱える者はいなかった。

 そう『あえて』。
 事情を知っている者なら特に首をかしげることではない。それを、あえて、問いただしたのだ。

「残念ながら妹の私にも、あの破天荒な兄の思考は読めませんわ。口が軽いように見えて秘密主義なところがありますし」

「ほほ。老いぼれには内緒か」

「なんの事だか私には解りかねます」

 迷いのない答え。
 相変わらずキリリとした眉はピクリとも動かず。曇りのない夜空のような瞳はそのまま意志の強さを表していた。

 ダリウスは諦めざるを得なかった。

 しかし、ただでは引き下がらない。
 何か考えこむようにそっと目を伏せた後、ゆっくりと語りかけた。
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