空色幻想曲
「イイ勘してるぜ、あのじいさん。さすがは元騎士だな」

 陽気な声がひとけのない回廊に響く。
 振り向いたシレネは白いカチューシャで前髪をあげた(ひたい)に縦じわを刻ませた。

「感心するのは結構ですが努々(ゆめゆめ)お気を抜かれませぬよう。フォローするこちらが大変ですわ」

「味方が増えたんだからいいじゃねぇか。正直、オレ一人で立ち回るのはキツイと思ってたしな」

 サッパリと刈り上げた黒髪の頭をわざとらしくかいて妹の苦労を気にも留めずにカラカラ笑う。どこまでも緊張感のない態度に、怒る気力が削がれてしまった。

「巡検隊には頼まないのですか」

「仲間に頼むのはまだ早ぇ。誰が敵か味方かもわかってない状態でオレが嗅ぎ回ってると知られるのはマズイからな。協力を仰ぐなら絶対味方だと確信できて、かつ、オレと無関係なヤツがいい。
 ま、ダリウスのじいさんなら適任だ。ありがたい申し出だぜ」

 兄の言葉に胸をなで下ろす。本来疑いようのないほど信頼できる人物なのだが、今回ばかりは親しい人間ですら疑ってかかれと念を押されていたのだ。

 だが、兄に協力する立場でありながら国内で(うごめ)く不穏分子についての詳細はほとんど知らされていない。

 味方であっても必要以上に情報を開示しないのが、巡検騎士の鉄則だ。

 それでも黙って──シレネの場合、文句は言うが──協力してくれる者を得るには、人選を慎重にしなければいけない。
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